2005/12/23

いつになく朝、布団から出るのが億劫だった。

今日はこの街を出て、アンティグアと言うという街に向う予定だったのですが、9時を回っても、中々、布団から出る気になれませんでした。

シェラは標高が高いので朝晩の冷え込みがかなり激しい。でも、これはメキシコのサンクリストバルやオアハカも同じ状況。グアテマラに入って、まだこの国が一体、どんな所なのか掴みかねているのと、またあのバスに乗って移動するのかぁという面倒臭さと、昨日の温泉で日本が少し恋しくなってしまったので、なんだかいつまでも布団の中に潜っていたい気分でした。とはいえ、このまま寝ていたら、また寒いシェラに留まらなくてはならなくなってしまうので、思い切って移動の準備を始めました。

ここから目的のアンティグアまではダイレクトで行く事が出来ず、途中でバスを乗り換えなくてはなりません。いつもの様に混沌としたバスターミナルまでタクシーで行き、まずは首都、グアテマラシティー行きのバスに飛び乗りました。そして、荷物は例の如く、車体の上に投げ込まれてしまいました。一旦、上に上げられてしまうと、自分が降りるまで荷物があるかどうか分からない。これが何よりも嫌な事なんですが、バスが停まった時に、他の人が持って行かないかを確認するくらいしか防衛策は無く、後は盗まれない事を祈るばかり。

終点まで行かずに途中下車しなければならないので、バスの中で運賃を払う時に、着いたら教えて下さいと車掌に頼みました。すると、隣に座っていたおじさんが親切に英語で俺も同じ場所で降りるから、ちゃんと教えてあげるよと言ってくれました。

彼の名はカスティーロ。ニカラグア人なんですが、奥さんがグアテマラ人で今は僕がこれから向う、アンティグアの近くに住んでいるそうで、かつて13年間アメリカで働いていた事があり英語が達者でした。中米にはかつてアメリカへ不法滞在し、レストランの厨房等で働いていたおじさん達がかなりいます。そして、今でもそういう人々がニューヨークやロサンゼルスの飲食業界を裏で支えています。僕らはぎゅうぎゅうのバスで隣に座っていたので、色々と僕にグアテマラを旅行するにあたっての心構えや、おすすめの観光スポット等を教えてくれました。今日も窓から見える景色はとても奇麗でした。

グアテマラに入って、バスの質は極端に下がりましたが、移動にかかる費用は3分の1以下までガクッと下がりました。しかし、安くなったのは移動費と宿代だけで、実はそれ程、物価は変わっていません。そして、この国のドライバーはアジア同様、かなり運転が荒い。カーブでも殆ど減速しないし、ちょっとでも、前が詰まっていると激しくクラクションを鳴らしながら、反対車線を逆走して、強引に渋滞を回避しようとします。

今日も、運悪く途中の山道でとてつもなく長い渋滞に遭遇してしまいました。いつまで経っても動かない車の列にしびれを切らした多くの車が反対車線を走って少しでも前に出ようとする。しかし、割り込まれる方も中々、道を譲らず、怒ったドライバーが割り込もうとしている僕らのバスの窓をバンバン叩き始める始末。そこへ反対車線から車がやって来てもう、辺りは滅茶苦茶な状況でした。カスティーロは実家に戻る為のクリスマス渋滞だと言っていましたが、1時間程で渋滞の先頭までやってくると、何とカーブを曲がりきれなかったバスが谷底に落ちていました。3台の牽引車で引っ張り上げられる黄色いスクールバスを見ながら、あれに乗っていなくて良かったと心から思いました。

この運転ならいつこんな事故に巻き込まれてもおかしく無いよな…

グアテマラには3つの移動手段があります。チキンバスと呼ばれる僕がいつも利用している中古のスクールバスと、1等バスと呼ばれる、普通の観光バスタイプのバス。しかし、1等と言っても、メキシコのバスとは違いかなりボロい。そして、シャトルバスと呼ばれる、普通のワゴンタイプの車。旅行代理店が運営しているシャトルバスは目的地までダイレクトで行くし、時間もバスより格段に早い。それに荷物が無くなる心配もないのですが、その分料金が一番高い。グアテマラを旅する多くの旅行者はこのシャトルバスを利用しているのですが、これは前日までに旅行代理店で予約したりしなければならないので、僕はまだ一度も乗った事がありません。

予定では4時間半でアンティグアへ着くハズでしたが、例の渋滞のおかげで結局、7時間近くかかってアンティグアに到着しました。しかし、窓から見えたこの国の美しい景色と、カスティーロとずっと話をしていたおかげで、それ程退屈はしませんでした。彼はアンティグアから15分程行った所に住んでいる自分の住所を教えてくれ、帰ったら奥さんに聞いてみるから、明日から家に泊まりに来いと親切に申し出てくれました。アンティグアでは飛行機のチケットを買ったりしなければならなかったので、ちょっと迷ったのですが、僕は必ず行くと約束しました。旅に出て以来、現地の人とここまで仲良くなった事が無かったので凄く嬉く、グアテマラに入って現地の人との距離がググッと近くなった感じがしました。

アンティグアのバスターミナルでカスティーロの家に向うバスを教えてもらい、僕らは明日の12時に彼の家で会う約束をしました。しかし、別れ際に申し訳無さそうに彼は僕に「30ケツァール貸してくれないか?」と言って来ました。そして、今にも泣きそうな目で僕の顔を見つめていました。

やっぱりそうだったのか…

それにしても何で今、このタイミングでそんな事を言って来たのか?どうせそのつもりだったのなら、明日の別れ際に言ってくれれば良かったのに…僕はがっかりしたと同時に、これは少しでも楽しませてくれたお礼だと思って迷う事無く彼に30ケツァールを渡しました。彼はお金を渡した僕の手を握って、僕の為に神のご加護があります様にとキリスト教のお祈りをしてくれました。そして、手を離し「危ないから、振り返らずに真っすぐ歩け!」と僕の背中を押しました。しつこく付きまとう物乞いを無視して、僕は混沌としたバスターミナルの雑踏を歩き出しました。言われた通り、一度も振り返らずに。

アンティグアにはペンション田代という日本宿があります。実は僕はここで、以前、メキシコシティーで会った馬上さんと久々に会う約束をしていました。しかし、宿に行ってみると1泊35ケツァールのドミトリーはクリスマスを日本人宿で過ごそうと考えている旅行者達満室でした。仕方なく72ケツァールのシングルに入ったのですが、ここも明日には予約が入っているらしく1泊までだと言われてしまいました。

毎日、楽しい事ばかりは続かない。


それでも空は奇麗でした